いつも見ているドラマのお話。 主人公は女性でありながら警視庁捜査一課の主任。 男勝りのバリバリのキャリアウーマンでありながら、女性らしい身なりも忘れず、靴はヒールのあるパンプス。 事件解決後のエンディング。 階段を降りていると危うく転びそうになり、靴を見るとヒールが取れていて(事件発生時に買った靴なのでまだ数日しか経っていない靴)、「これで3足目・・・(涙)」 という落ち。

しかし、こうした時、現実的には大変困った事態となります。

一般的に靴のヒールが取れた後の展開としては、「買ったばかりの靴のヒールが取れた」 とお店にクレーム(・・・あのお店はどこかの百貨店の平場の靴売場でしょう)。 販売員はお客様に平謝りし、卸先に怒りの電話。 それを受けた卸先は販売員に平謝りし、メーカーに凄まじい勢いで怒りの電話。 すぐに卸先の責任者とメーカーの社長が、状況説明に伺う段取りをします。

ここで、品質管理が徹底されていないメーカーは困り果ててしまいます。

いくら聞かれても、原因を追及されても、製品検査等をして(結果を残して)いなければ、何も答えようがないのです。 しかも、謝れば済むというものでもなく、非もなく謝ってしまっては、その後の賠償も全て受け入れることになってしまいます。

今回のケースでは、反射神経も良く手すりを掴んで転倒を免れたため、平謝りしてお詫びのお菓子や新しい靴を差し上げる形で済むと思いますが(・・・なぜ済むかというと、損失が発生していないため訴えようがないからです)、これが転倒した場合そうはいきません。 下りでの転倒ですから、大怪我につながる可能性があります。 まして嫁入り前の若い女性ですから、顔に大きな傷を負うことにもなれば賠償も大変なものになります。

最終的には、製品検査等をしていない場合、「今まで事故はなかった」 とか 「きちんと製造しているはず」 くらいしか抗弁できないため、示談で提示された内容を全て受け入れざるを得なくなります。 また、販売店より、これまで販売した同型の商品(場合によっては同社が製造した全商品) の回収を通知される可能性が高く(費用負担は販売店⇒卸先⇒メーカーへ遡及して請求)、何かしらのペナルティ(取引停止等) も科せられることでしょう。 妄想は広がりますが、ヒールが取れた・折れたというのは それくらい恐ろしいことなのです(・・・業界関係者としては 笑って見ることができないシーンです)。

もしも品質管理が徹底されていれば、検査結果から品質基準を満たしていることを示した上で、販売店からお見舞いに伺う、無償で新しい靴と交換するなどの形で解決を図ることになります(・・・非はなくとも相手の感情に配慮することは必要でしょう)。

品質基準もない10年前は、階段にヒール部分を思いっきり打ちつけ 取れなければ問題なし・・・というような、ちょっと乱暴な抜き打ち検査をしたこともありますが、今ではレントゲンを導入し、ヒールを固定している釘の本数や入る角度・長さなどをチェックするという科学的な方法も一般的になってきました。 経費も手間もかかりますが、これも訴訟社会に備えてのことでしょう。

消費者の権利が強くなり、簡単に訴訟もできる昨今、中小・零細企業は一発で会社がなくなる事態にもなりかねません。 特に、人体に影響を及ぼす可能性のある商品を提供している方は、PL保険等に加入して万が一に備えることをお勧めいたします。