「この業種では、普通どれくらいの在庫があれば良いですか?」 ・・・ 経営支援に携わる中で、年に数回このような質問を受けます。

私は、在庫はその会社の資金繰り状況や商品性、生産状況などを勘案して決めるべきもので、業界平均や企業規模などの経営指標に比較して良い悪いを判断するのはナンセンスだと思っています。

以前、ある会社の支援をしたときのことです。 経営者から資料の開示とともに、経営状況や商品・生産体制 諸々の説明を受け、その後 開口一番、「当社の在庫についてどう思われますか?」 と意見を求められました。

私は、「当社の実情から全く問題ない」 と答えたことで、そのまま支援が継続されることになりました。

というのは、私の前にご同業の方が、業界の経営指標に比べて当社の商品回転率は異常、在庫を減らすように強く進言されたことで支援は打ち切り・・・代わりに私が呼ばれたという経緯を後で知ったのでした。 経営者は、在庫が多くても問題ないということを一から説明するのに辟易としており、当社の現状を正しく理解できる人に支援をお願いしたかったとのことでした。

商品性から考えると、定番でライフサイクルは非常に長く、新製品への切り替わりは取引先との関係を密にすることで事前に情報入手しています。 また、定番になるか分からない不安定な1年程度は、在庫を最小限にしています。 つまり、廃番リスクが小さくなるようにコントロールしているのです。 もちろん、上手くコントロールできずに在庫を抱えてしまうこともありますが、別の販路に流すことでロスを最小限に抑えるようにしています。

また、資金が寝ている状態ではあるものの、資金繰りは全く問題がありません。 さらに、資金調達金利分の機会ロスを考えてみても、原料発注ロットが大きくなることで値引き交渉が可能であり、何よりも工場の安定稼働が可能となることで生産性が向上するため、製造コスト削減に大きく貢献しています。 つまり、調達金利と比較にならないほどメリットの方が大きいのです。

数値だけみると完全なる異常値 ・・・ 「何かおかしい」 と感じますが、それが○か×かは経営実態次第なのです。

いってみれば、経営指標を用いた判断は相対評価。 参考に見るのは良いと思いますが、それを絶対的なものとして用いると間違った方向に導くことにも成りかねません。 安易に指標と比較して良い悪いを判断するのではなく、その企業の実態を一つひとつ掘り下げて考えることで判断していただきたいと思います。